ファアハンドストロークと片手および両手でのメディシンボール投げとの関係性について

著者:Cyril Genevois, Thibault Pollet (University of Lyon, France) & 
Isabelle Rogowski (Innovation in Sport, Villeurbanne Cedex, France) 
出典:ITF Coaching and Sport Science Review 2014; 62 (22): 21 – 23

ABSTRACT
本研究は、フォアハンドストロークインパクト後の最大ボールスポードと片手および両手でのメディシンボール投げとの関係性を調べたものである。フォアハンドストローク時のボールスピードと利き手での片手メディシンボール投げでは相関関係が見られたが(0.40-0.59)、両手でのメディシンボール投げとの間には相関関係は見られなかった(0.01-0.29)。つまり、片手および両手でのメディシンボールはタイプの異なるトレーニングになるため、トレーニング計画に基づき必要な時期に必要な方を使用する必要がある。

Key words: baseline, ball speed, physical conditioning, correlational analysis Corresponding 

Author: cyril.genevois@aol.fr

【背景】
Kovacs (2010)は、木のラケット時代は体力の時代だと述べている。また、力強さや速いボールスピードは、エリートレベルで成功するための要因である(Pugh, 2003)。近年のテニスは、サーブ後の動きが大事だと考えられており(Magnus, 1999)、フォアハンドストロークは試合を組み立てる上で有力なものと考えられる(Brabenec, 2000, Johnson et al, 2006)。高いレベルの選手は、相手を圧倒させるために、パワーと軌道精度で戦略的にフォアハンドストロークを使用している(Roetert, 2009)。

実際、選手たちはバックハンド側でのボールも回り込んでフォアハンドしている。近年の研究では、フォアハンドストロークのインパクト時において、臀部と体幹の異なる回転速度が影響していると報告されている(Landlinger et al, 2010; Seeley et al, 2011)。
これらのパフォーマンス要因を改善するために、Roetert et al. (2009)は、テニスの動きに含まれている側方面での両手によるメディシンボール投げ(Fig 1)を推奨している。


この投げ方は、下半身からのエネルギーを上半身に伝達し、腕に伝え投げることによってストロークを改善することが出来る。野球においても、打撃速度の改善のためにこの投げ方をトレーニングしている(Szymanski et al, 2007)。

しかしながら、実際のフォアハンドストロークと比較すると、両手でメディシンボールを投げることは、利き腕の自由度が少なくなる。これについてGenevois et al. (2013)は、片手でのメディシンボール投げ(Fig 2)を推奨しており、6週間のトレーニング後にボール速度が11%向上したと報告している。


そこで本研究では、片手または両手による2種類のメディシンボール投げと、フォアハンドストロークによるボール速度の関係性を調査し、フォアハンドストロークのパフォーマンス向上の可能性を検討した。

【方法】
基本的なウォーミングアップ後、成人20名のテニス選手(年齢:23.3±4.2歳、身長:179.1 ± 0.07 cm、体重:69.3 ± 7.7 kg、運動歴:11.6 ± 5.5年)に対し、フォアハンドストロークテスト、メディシンボール投げ(片手・両手)を行なった。フォアハンドストロークテスト(Genevois et al., 2013)は、10球のクロスショットを行うものであり、球速計測装置(SR 3600; Sports-radar, Homosassa, FL, USA)を用いて最大速度を測定した。2球計測し、その平均速度を総計分析に用いた。

側方メディシンボール投げは、片手および両手投げを5種(1.5〜5kg)のメディシンボールを用いてランダムに投じた。

図のように45°の投射角とし、2m幅の落下地点に収まるよう投げた。各ボールの試技において、1番良い数値を統計分析に用いた。 

統計分析はピアソンの相関分析を行い、p≦0.05を有意とした。
【結果】
投げる技術に関係なく、飛距離はメディシンボールの重量増加に応じて減少した。また、ボール重量に関係なく、飛距離は両手投げより片手投げの方が良い成績であった。


以下は、フォアハンドストローク時のボールスピードと片手および両手でのメディシンボール投げの飛距離との相関分析の結果である。


【考察】
メディシンボールの片手投げは、いずれの重量のボールにおいても両手投げより飛距離が高かった。また、片手投げはフォアハンドストロークの速度との間にも相関関係が見られた。これには、両手投げでは投射時に腰とボールの距離が近いのに対し、片手投げではそれが遠くなるという現象が考えられる。


従って、両手投げでは背部の筋肉からの伸張短縮サイクルが制限されるため、体幹全体の回転によるパワーで投げている可能性がある(Ikeda et al., 2007; Ikeda et al., 2009)。これは、腰とボールの距離を近くすることで
慣性モーメントを減らし、大きな回転速度を得ようとしている可能性がある。また、両手投げとフォアハンドストロークとの間に有意な相関関係が見られなかったことは、フォアハンドストロークのラケット速度への体幹の貢献度は10% である(Elliott et al., 2009)という報告を支持するものである。

フォアハンドストロークにおけるラケット速度は、上肢の内旋(40%)と水平方向への屈曲(34%)によって作り出されている。フォアハンドストロークとメディシンボール片手投げの間に有意な相関関係がみられたのは、両者の運動動作や腕の自由度が類似していからである。
フォアハンドストロークと相関関係が認められなかったメディシンボール両手投げは、選手に対しする一般的なトレーニングドリルとして行うことが推奨される。より速い体幹の回転速度はラケット速度に影響する(Seeley et al, 2011)との報告もあることから、両手投げは体幹を回転させる能力を向上させるために行うと良いだろう。
一方、片手投げのメディシンボール投げは、フォアハンドストロークの動作と類似していることから、フォアハンドストロークのパフォーマンス向上において専門的なドリルとして用いることができるだろう。

【結論】
本研究の結果は、フォアハンドストロークのボール速度にはメディシンボール片手投げと関係性が認められ、その一方で、両手投げとの関係性は見られなかった。両手投げは一般的なトレーニングドリルで使用し、片手投げは専門的なドリルとして用いることが効果的であることが示唆された。
【参考文献】

  1. Brabenec J. (2000). Why the forehand is a key stroke? ITF Coaching and Sport Science Review 21, 11-13. 
  2. Elliott, B., Marsh, T., & Overheu, P. (1989). A biomechanical comparison of the multisegment and single unit topspin forehand drives in tennis. International Journal of Sport Biomechanics 5, 350-364. 
  3. Elliott, B., Reid, M., & Crespo, M. (2009). Technique development in tennis stroke production. Valencia, Spain: ITF Publications. 
  4. Elliott, B., Takahashi, K., & Noffal, G. (1997). The influence of grip position on upper limb contributions to racket head velocity in a tennis forehand. Journal of Applied Biomechanics 13, 182-196. 
  5. Genevois, C., Frican, B., Creveaux, T., Hautier, C., & Rogowski, I. (2013). Effects of two training protocols on the forehand drive performance in tennis. Journal of Strength and Conditioning Research 27, 677- 682. 
  6. Ikeda, Y., Kijima, K., Kawabata, K., Fuchimoto, T., & Ito, A. (2007). Relationship between side medicine-ball throw performance and physical ability for male and female athletes. European Journal of Applied Physiology 99, 47-55. 
  7. Ikeda, Y., Miyatsuji, K., Kawabata, K., Fuchimoto, T., & Ito, A. (2009). Analysis of Trunk Muscle Activity in the Side Medicine-Ball Throw. Journal of Strength and Conditioning Research 23, 2231-2240.

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