四大大会から得られたデータから見る「男子テニス v.s. 女子テニス」
出典元:ITF Coaching & Sport Science Review 62 p.3-5 (2014) より
著者:Rod Cross(シドニー大学)
この記事では,四大大会(グランドスラム)のデータから,男子テニスと女子テニスの定量的な違いを示している.最も明確な違いはサーブ速度であるが,その他,各試合のセットおよびポイントごとのエース数,ダブルフォルト,アンフォーストエラー,ウイナー,タイブレークセットといった試合状況によっても異なってくる.
(1)サーブ速度の違い
2009年における各四大大会での男女の平均サーブ速度を表1に示した.
四大大会すべてのファーストサーブの平均速度としては,男子は184.1km/h,女子は158.5km/hである.男女の差は25.6km/hとなる.
セカンドサーブでは,男子は150.4km/h,女子は133.4km/h.その差は17.0km/hである.
次に,2013年時点でのサーブ速度トップ20として各大会のウェブサイトで示されている選手の平均値が表2である.
男子は218.6km/h,女子は185.6km/hであり,その差は33km/hとなる.
(2)サービスエースとダブルフォルトについて
男子のほうが女子に比べてエースが多く,ダブルフォルトが少ないということは驚くようなことではないのかもしれない.
これについて大会ごとに2001年~2013年までの経過をを示したのが図1である.
この図で示しているデータの算出は,総ポイント数をエース数,ダブルフォルト数で除したものである(1に近づくほどエース数,ダブルフォルト数が多い).
各大会を比較してみると,ウィンブルドン(芝)では女子でもエースを取りやすく,フレンチオープン(赤土)においては強いサーブでなければエースが取りにくいことが数値として理解できるだろう.
2001年当時と現在を比べてみると以下のことが分かる.
1)女子はエースが増加する傾向にある.
2)男子はダブルフォルトが減少する傾向にある
(3)タイブレークセット
図2で示しているのは,各大会の総セット数を総タイブレークセット数で除したデータである.
例えば2013年のオーストラリアオープンにおいては,男子は7セットごとに,女子は14セットごとにタイブレークセットがみられる.
(4)ゲーム毎のポイント数とセット毎のゲーム数
図3はゲーム毎の平均ポイント数とセット毎の平均ゲーム数である.
総じて,男子は1ゲームにつき約6.3ポイント,女子は1ゲームにつき6.6ポイントであった.なお,最少ポイント数は4ポイントということになる.
1セット毎のゲーム数は,男子は10,女子は9であった.
男子がゲームを取るために必要なポイントは女子よりも少ないが,セットをとるためのゲーム数は多くなる.この後者の結果は興味深い.その理由としては,男子は強いサーブでゲームを取ることが容易であるが,それは両者ともに言えることなのだろう.
(5)サービスブレイク
男子のサーブは女子よりも速いことから,男子はサーブによってゲームに勝つことは容易である.したがって男子のサービスブレイクについては興味深いものとなる.
図4は,総ゲーム数をサービスブレイクが発生したゲーム数で除したデータである.
平均して,男子は5ゲーム毎に,女子は3ゲーム毎に発生している.
(6)サービスゲームでの勝利
図5はサービスゲームでの勝率を示している.
男子は約80%,女子は65%をサービスゲームとして勝利している.
ウィンブルドンが突出して高いことが見て取れる.
図5 サービスゲームの勝率
(7)ウイナー(エース)によるポイント
図6はウイナー(エース)によるポイント数を示している.フレンチオープンのデータがないため,ここでは図示できていない.
データは総ポイント数をウイナーによるポイント数で除したものである.
男子は女子よりもウイナーによるポイントが多いことが分かるが,その違いはサービスエースほどの差はない.
ウィンブルドンでは,男子シングルではたいてい約10000ポイントのウイナーが記録されるのだが,2010年の大会では30251ポイント中,15157ポイントのウイナーが記録された.ウイナーが多発したこの現象は,その年の女子においても見られている.
(8)アンフォーストエラー(凡ミス)によるポイント
図7はアンフォーストエラーによるポイント数を示している.
このアンフォーストエラーについてもフレンチオープンの記録は報告されていない.
アンフォーストエラーも男子は少ない結果であることが分かる.
男子はおよそ4ポイント毎に1回のアンフォーストエラーが発生していることになり,女子では約3.5ポイントに1回であった.
このように,テニスの男子と女子は競技データが異なっていることが分かる.
これはおそらく男女の体力的特徴から現れてくるものであろうが,指導者はこうした男女の違いを認識した上で選手へのアドバイスをすることが求められる.